大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ナ)7号 判決

原告 中村忠吾

被告 竜野喜四郎

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告代理人は、「昭和二十六年四月二十三日行われた長野県小県郡和田村の村長選挙における被告の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、原告は、昭和二十六年四月二十三日行われた長野県小県郡和田村の村長選挙における選挙人名簿に登録された選挙人であるところ、被告は、同選挙において当選人として決定され昭和二十六年四月二十四日その旨告示された。ところで、右和田村村長選挙における選挙運動に関する支出金額の制限額は、和田村選挙管理委員会の告示にかかる七千四百円であるが、被告の選挙運動に関する費用の支出額は、右制限額をはるかに超過するものである。即ち、被告がその選挙運動費用として和田村選挙管理委員会え提出した精算届出書によると、選挙事務所費として合計三千九百三十円だけを記載するに過ぎないけれども、事実は、被告は、昭和二十六年四月二十一日とその翌日に亘つて和田村柳沢金次郎所有の大型トラツクに拡声機を備え付け選挙運動員二十数名を乗せて当該村長選挙において当選を得る目的を以て遊説をなした。右運動のため使用した右トラツクの使用時間は、昭和二十六年四月二十一日には少くとも一時間、翌二十二日(選挙の前日)には午前九時三十分から午後十時まで十二時間三十分であり、その使用料は、一日(八時間)三千九百円で八時間を超える場合は一時間毎に八分の一を加えることになつているから、昭和二十六年四月二十一日には一時間金四百八十七円五十銭となり、翌二十二日には十二時間三十分(これは十三時間として計算して差し支えない)金六千三百三十七円五十銭となり、右両日の使用料は計金六千八百二十五円となる。次に右運動のため使用した拡声機の使用料は、昭和二十六年四月二十一日と翌二十二日の二日分借賃千円を唐沢ラヂオ店に支払つて居り、その他に小林ラヂオ店え四百円を支払つているから、計金千四百円の使用料となる。そこで右トラツクと拡声機の使用料を合計すると八千二百二十五円となるが右は被告の選挙事務所から支出していないとしても、被告は前記の時間右トラツクに乗車し、自ら立候補の挨拶をしたものであるから、右は意思を通じてなされたものであつて、その費用は、当然選挙費用として評価加算さるべきものである。従つて被告の選挙運動に要した費用の総額は、右使用料相当額と既に届出済の三千九百三十円との合計一万二千百五十五円となり前記制限額七千四百円を超過すること実に四千七百五十五円に及ぶので、ここに被告の当選を無効とする旨の判決を求めるため本訴に及んだ次第であると陳述し、被告の抗弁事実を否認した。(立証省略)

被告代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告がその主張の如く和田村の村長選挙における選挙人であり、被告が当選人として決定されその旨の告示があつたこと、同選挙における選挙運動に関する支出金額の制限額が七千四百円であること、被告が和田村選挙管理委員会え提出した費用精算金額が合計金三千九百三十円であることは認めるが、その余の原告主張事実は否認する。原告主張のトラツクの出動は、被告候補者や選挙事務長等が依頼したものでもなく、また、寄附を受けたものでもない。それは和田村青年団有志が被告候補者のため、独自の立場で宣伝してくれたもので、正当の手続を踏んでなした第三者運動である。従つて右宣伝のための費用は被告が支払う筋合のものでもなく、また選挙費用となすべき性質のものでもない。また被告候補者が右青年団有志のトラツクに乗車した事実はあるも、その時間は、昭和二十六年四月二十一日午後九時三十分から十時まで約三十分間、翌二十二日は午前九時から午前十一時三十分まで約二時間三十分、午後六時三十分から同六時四十五分まで約十五分間と外に約十分間合計三時間二十五分に過ぎない。しかもそれは青年角竜友久等から是非乗車してくれと依頼されたので同人等の懇請断り難く乗車したものであつて、その間被告候補者と右青年団有志とは何等意思は通じていなかつたものである。仮に乗車した時間は選挙費用に評価さるべきであるとしても、その乗車時間は前述の三時間二十五分であるから、トラツク使用料一時間金四百八十五円の割で計金千六百五十七円二十五銭となる。また拡声機代は角竜友久は拡声機関係の代金合計千四百円を支払つたのであるから、これを使用した合計時間は右二十一日は約二時間、翌二十二日は約十二時間として計十四時間、これが一時間分は金百円となり、被告の乗車中の前記三時間二十五分間分は金三百五十円弱に過ぎない。従つて右両者の合計二千七円二十五銭を既に届出の事務所費三千九百三十円に合算するも、その額は五千九百三十七円二十五銭にして、制限額七千四百円にはなお千四百六十二円七十五銭の余裕があるから当選の効力には影響がないと陳述した。(立証省略)

三、理  由

原告がその主張する如く和田村の村長選挙における選挙人であり、被告が当選人として決定されその旨の告示があつたこと、同選挙における選挙運動に関する支出金額の制限額が七千四百円であること、及び被告が和田村選挙管理委員会え提出した費用精算額が合計金三千九百三十円であることはいずれも当事者間に争いがない。

而して右選挙に際し、被告候補者のため昭和二十六年四月二十一日とその翌二十二日に亘り和田村柳沢金次郎所有の大型トラツクが和田村の青年十数名を乗せ、これに拡声機を備え付けて出動したことは、証人佐藤正夫、遠藤勝、角竜友久等の各供述により明らかであるが、右トラツク及び拡声機は、被告自身がなす運動のため被告候補者又はその出納責任者において借り入れ若くは寄附を受けたものであると認められる証拠は全然ない。却つて成立に争のない甲第一号証、乙第一号証、同第二号証の一、二、三、同第三号証の一ないし五、証人角竜友久、柳沢金次郎、中村喜平、原袈裟人の各証言並びに被告本人尋問の結果を綜合すれば、訴外角竜友久等約二十名の和田村青年有志は、同選挙において被告候補者を支援することを申し合わせ、第三者として独自の立場で宣伝をなすため、前記柳沢金次郎から本件大型トラツクの無償提供を受け、拡声機は唐沢ラヂオ店から借り受け、角竜友久の願出により依田窪地区警察署長若くは和田村選挙管理委員会より、これらの使用許可を得て昭和二十六年四月二十一日から翌二十二日に亘り、第三者として選挙運動に従事したのであつて、その間被告候補者又はその出納責任者と何等意思の連絡がなかつた事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。ただその際、被告が二十一日午後九時三十分頃から約三十分間右トラツクに乗車したのをはじめに、翌二十二日には前後三回乗車し、その乗車時間は合計約三時間二十五分に及ぶことは被告の認めるところであつて、その乗車時間は証拠上必ずしもつまびらかでないが、右乗車中被告が同乗の青年とともに投票を得る目的を以て挨拶をなす等選挙運動をなしたことは証人角竜友久の証言並びに被告本人尋問の結果に徴しこれをうかがい知ることができるので、右青年有志のくわだてたトラツク並びに拡声機による選挙運動は、その発端はともあれ、少くとも被告の乗車した二十一日午後九時三十分頃からは候補者である被告と意思を通じてなしたものと推定するのが相当ではあるまいかとの見方もなされ、それも一理ある見方にはちがいないのであるが、証人羽田直人の証言によれば、これよりさき四月十七日頃柳沢金次郎から被告の選挙事務所に対し自動車を提供するからこれで宣伝したらどうかとの申入があつたが、被告選挙事務所では寄附でも選挙費用に加算されるということと村内では自動車で廻る程の必要はないという点からこれをことわつたことが認められるので、既にこのことを知る被告が今さら選挙費用増大の危険をおかしてまで青年等に対し明示的にも黙示的にも被告のため本件トラツク並びに拡声機による選挙運動を継続してなすべきことを依頼するとは考えられず、本来青年等は被告とは無関係に第三者の運動として本件運動をくわだてたのであつて、その運動の途中被告の同車を得て気勢をあげたのは事実であろうが、これがため右同車のときから被告のなす選挙運動に合流する意思をもつていたとも思われず、現に証人角竜友久の証言によれば、被告の同車にかかわらず、最後まで第三者の運動として終始し、被告の選挙事務所とは何等の交渉をもたなかつた事実が認められるから、被告が、積極的に右運動の停止方を求めなかつたからといつて黙示的に本件運動をなすべきことを依頼し青年等がこれに応じたのであつて、ここに運動についての合意が成立したのであるとなすのはいささか早計であつて当らない。さらに被告本人の供述によれば、被告は青年等の切々の言動にうごかされ不用意にも同車したのであつて、前後四回同車したのは事実であるが、そのうち四月二十二日午後の二回はその乗車時間も短かくほとんど運動と無関係であつた事実が認められるので、その同車回数の四回なるの故を以て意思を通じた証左となすことを得ず、結局前記推定を下すことは少くとも本件においては適切でないものといわなければならぬ。しからば被告の現に乗車し運動した時間はどうかというに、公職選挙法第百九十七条第一項第三号によれば、公職の候補者が乗用する船車馬等のために要した費用は選挙運動に関する支出でないものとみなされているので、被告が本件トラツクに乗り運動をなしたからといつて、その乗車時間に対応する本件トラツクの使用利益を時価に見積つて被告の選挙費用に加算することは許されず、わずかに問題を生ずるは右時間に対応する拡声機の使用利益であるが、証人矢ケ崎賢次、中村喜平の証言によれば、拡声機の使用料は時価によるべきものであつて、和田村選挙管理委員会においては一日の使用時間を八時間として一日金千百円と見積り、なお一時間をますごとにその八分の一づつを加算することとなした事実を認めうべく、又、証人角竜友久の証言によれば、同人等は、本件運動をなすに当り本件拡声機を借賃二日間を通じ金千円で上田市所在唐沢ラヂオ店から借り入れ、又金四百円の謝礼を払つて小林技師にトラツクに同乗の上これが操作をして貰つた事実が認められるので、一日の使用料を金千百円(一時間当り金百三十七円五十銭)とし、被告の使用時間を合計四時間としても、(四時間以上である証拠はない。)その被告の選挙費用に加算さるべき金額は金五百五十円にすぎぬものというべきである。

以上の次第で、本件トラツク並びに拡声機による選挙運動に要した費用は、被告の使用時間に対応する拡声機の使用料を別としてすべて第三者が候補者たる被告又はその出納責任者と意思を通じないで支出したものであつて、たとえその支出が出納責任者の承諾を得ない違法の支出であつて処罰さるべきものとするも、(公職選挙法第百八十七条第二百四十六条第四号参照)現に被告又はその出納責任者と意思を通じたものでない以上、これを被告の選挙費用に加算すべきでなく、被告の使用時間に対応する拡声機の使用料はこれを被告の選挙費用に加算すべきものとしても、その額は前認定のとおり金五百五十円を出でないのであるから、これを被告届出の費用額金三千九百三十円に合算するもその額は金四千四百八十円である制限額金七千四百円をはるかに下廻ることが明らかであるから、被告の選挙費用が制限額を超過することを理由としてその当選を無効とする旨の判決を求める原告の本訴請求は失当であつてこれを棄却すべく、よつて民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決した。

(裁判官 大江保直 梅原松次郎 奥野利一)

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